このサイトについて
目的と作製の経緯
本サイトは,医学の歴史を概観する目的で作製しました.主な対象は医学部の学生さんです.現在,ほとんどの医学部で,まとまった医学史の講義は行なわれていないのが現状です.膨大な最新医学の知識を学ぶには,6年でも足りないくらいですから,これは止むを得ないことだと思いますし,医学史を知らなくても現代の医学を学ぶ上で不都合はありません.
しかしながら医者たるもの,ヒポクラテスやコッホのことぐらいは知っておいて欲しいとも思います.また医師国家試験にも,教養科目として医学史関連の問題がごく少数ですが出題されています.そこで医学部の学生さんが,医学史を簡単に概観できるようにしたのがこのサイトです.筆者は国際医療福祉大学医学部で6年間にわたって医学史の講義を担当しましたが,その講義内容がもとになっています.
2023年7月現在,まだまだ未完成ですが,とりあえず大枠ができたので,筆者が所属する 慶應義塾大学医学部放射線科 のウェブサイト上で公開している 放射線医学史のサイト の姉妹篇として公開することにしました.
参考資料
全体を通じて下記の資料を参考としました.
医学通史
- Jean Charles Sournia. The illustrated history of medicine (Harold Strarke Publishers Ltd. 1992)
- Roy Porter. The greatest benefit to mankind (Fotana Pres, 1997)
- Roy Porter ed. The Cambridge illustrated history of medicine (Cambridge University Press, 1998)
- Jacalyn Duffin. History of medicine. A scandalously short introduction (University of Tronto Press. 1999)
- Hal Hellman. Great feuds in medicine (John Wiley & Sons., 2001)
- Julie M. Fenster. Mavericks, miracles, and medicine. (Carroll & Graf Publischers, 2003)
- Harold Ellis. The Cambridge illustrated history of surgery (Cambridge University Press, 2009)
- William & Helen Bynum ed. Great discoveries in medicine (Thames & Hudson, 2011)
- 小川鼎三. 医学の歴史 (中央公論新社, 1964)
- 大鳥蘭三郎. 近世医学史から (形成社, 1975)
- 川喜田愛郎. 近代医学の史的基盤(上・下) (岩波書店, 1977)
- 川喜田愛郎. 医学概論 (真興交易医書出版部,1982)
- 酒井シヅ. 医学史への誘い (診療新社, 2000)
- 梶田昭. 医学の歴史 (講談社, 2003)
- 茨木保. まんが医学の歴史 (医学書院, 2008)
- 百島祐貴. 医学生のための医学史 (医学教育出版社, 2017)
- 坂井健雄. 図説医学の歴史 (医学書院, 2019)
日本医学史
- 富士川游. 日本医学史要綱(1・2) (平凡社 , 1974)
- 新村拓. 日本医療史 (吉川弘文館, 2006)
- 酒井シヅ. 病が語る日本史 (講談社, 2008)
- 小高健. 日本近代医学史 (考古堂書店, 2011)
執筆者
百島祐貴 (ももしま すけたか). 1982年 慶應義塾大学医学部卒.同放射線診断科専任講師, 應義塾大学病院予防医療センター副センター長を経て,現在 同特任講師(画像診断担当). 専門は画像診断学.医学史,放射線医学史にも関心をもつ.医学博士,放射線科専門医.
医学史・放射線医学史に関する主な著作
- ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 (平凡社新書, 2008)
- 画像診断のトリビア (中外医学社, 2011)
- 医学生のための医学史(医学教育出版社, 2016)
- アトミック三部作 (ジェームズ・マハフィー著,百島訳,医学教育出版社/ボイジャー,2018)
- アトミックアウェイクニング:原子の発見からマンハッタン計画,そして原子力発電へ
- アトミックアクシデント:放射能の発見から福島第一原発事故まで.放射線・原子力事故の歴史を辿る
- アトミックアドベンチャー:幻の常温核融合,日本の原爆開発,そして放射線殺人
- 百島祐貴.ワクチンの歴史.Community Care 28-32,2020
- 百島祐貴.産褥熱とゼンメルワイス.In: 岩田健太郎他. ナイチンゲールはなぜ「換気」にこだわったのか.
日本看護協会出版会. 2021 - 陣崎雅弘,茂松直之,百島祐貴.日本初の放射線科医藤浪剛一と草創期の放射線医学.画像診断 41:1429-33,2021
- 青木茂樹,百島祐貴.日本医学会138分科会の歴史ー日本医学放射線学会.日本医学会120年記念誌.2021
- 百島祐貴.造影剤開発の歴史.In: 粟井和夫他編.エビデンスに基づくCT造影剤の投与と安全対策.メジカルビュー, 2024
執筆者の所属する慶應義塾大学医学部放射線科学教室には,日本の医史学の先駆者,日本医史学会の創立者のひとりでもある 大鳥蘭三郎 先生がおられました.先生は1945年から1983年まで医史学教室で医学史を講じられ,執筆者もその講義を受けたひとりです.しかし大鳥先生の没後,医史学教室は消滅し,医学部でもまとまった医学史の講義はありません.全国的にみても医学史を講じている医学部は減少の一途を辿り,おそらく現在のところ 順天堂大学医学部医史学研究室 が医学部で唯一の正式な医史学講座ではないかと思います.これも時代の趨勢として止むを得ないところです.
以下,執筆者の私見です.学問の歴史を学ぶことの意義は,しばしば温故知新に求められます.故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る,すなわち過去の歴史の勉強から新しい知識が生まれる,現在を知り新しい知識を得るには過去の歴史を学ぶことが重要であると説かれます.確かにいわゆる文系の学問,特に哲学,宗教学などではそうかもしれません.しかしこと医学史についてはそうは思いません.医学の研究をする場合,もちろん先行研究を知ることは必要です.しかし日進月歩の医学の場合,せいぜい過去10年,長くても20~30年の歴史を知れば十分でしょう.半世紀,一世紀,それ以上前のことを知る必要はまずありません.歴史を知らずして現代医学を理解できないとか,医師たるもの医学史を知らなければ,などと書いてあるものがありますが,そんなことはないでしょう.
自分が医学史,放射線医学史に興味を持つ理由は,単におもしろいからです.日々診療に当たり最新の医学を実体験しつつ歴史を振り返ると,驚くようなこと,意外なことがたくさんあります.それを単におもしろいと思うから医学史を読むのであって,これが現在の自分の仕事に役立つことは期待していませんし,役立ったこともありません.最新鋭の機器,環境の恩恵に浴して日々の仕事をしながら歴史を読むとき,先人への畏敬と感謝の念を禁じ得ません.それも医学史を読む理由のひとつです.専門誌に掲載されている医学史研究論文の多くは,自ら医学,医療に携った経験のない研究者による,学問のための学問です.それはそれで有意義な仕事だとは思いますが,このような感動や思い入れは感じられません.このサイトを訪れる閲覧者各位のそれぞれの立場に,多少なりとも資するところがあれば幸いです.
謝辞
本サイトの作製にあたって御指導,御協力いただいた 慶應義塾大学医学部放射線診断科 陣崎雅弘教授に深謝します.
文献の収集にあたっては,慶應義塾大学信濃町メディアセンターのスタッフの方々の全面的な協力を得ました.100年以上も前の古い文献は,書誌事項が不正確,不明瞭なものが多く,国内はもとより欧米の主要図書館にも所蔵されていないものもありましたが,さまざまな手段を駆使してほとんどすべての文献を検索,提供していただいたことに深甚の謝意を表します.
連絡先
本サイトについてお気づきの点があれば,下記宛て是非御連絡ください.
改訂履歴
- 2024-10-11 人物篇に「ナイセル」を追加
- 2024-10-10 「化学療法」に関連事項「梅毒の歴史」を追加
- 2024-10-08 「細菌学と消毒法」にハンセンの原著論文を追加
- 2024-09-18 「細菌学と消毒法」に関連事項「癩菌の発見」を追加
- 2024-09-13 「細菌学と消毒法」にコッホの原著論文を追加
- 2024-07-05 「野口英世」を更新,原著論文を追加
- 2024-06-10 「志賀潔」を更新,原著論文を追加
- 2024-04-26 人物篇に「石原忍」を追加
- 2024-04-07 「眼科学の歴史」を追加
- 2024-03-15 「薬物の歴史」に関連事項「マラリアの歴史」を追加
- 2024-03-12 「ワクチンと血清療法」に関連事項「ジフテリアの歴史」を追加
- 2024-03-09 「ワクチンと血清療法」にエールリッヒの原著論文を追加
- 2024-03-05 人物篇に「エールリッヒ」「ベーリング」を追加
- 2024-02-27 「化学療法」にエールリッヒの関連文献を追加
- 2024-02-22 「ワクチンと血清療法」にエールリッヒ, 北里柴三郎の原著論文を追加
- 2024-02-17 「心臓外科の歴史」にレーンの原著論文を追加
- 2024-02-09 人物篇に「カレル」を追加
- 2024-02-09 「心臓外科学の歴史」を追加
- 2024-01-15 「細菌学と消毒法」を更新,リスターの原著論文を追加
- 2024-01-07 「看護の歴史」に関連文献を追加
- 2024-01-03 人物篇に「長与専斎」「近藤次繁」を追加
- 2023-12-31 「化学療法」に関連事項「結核の歴史」を追加
- 2023-12-24 「幕末・明治維新の医学」を更新
- 2023-12-24 「腹部外科の歴史」にランゲンブーフの原著論文を追加
- 2023-12-19 「整形外科学の歴史」に関連文献「アラビアのギプス技術のヨーロッパへの紹介」を追加
- 2023-12-15 人物篇に「ポット」を追加
- 2023-12-15 「整形外科学の歴史」を追加
- 2023-11-19 「女性医師の歴史」を更新
- 2023-11-14 「輸血の歴史」にラントシュタイナーの原著論文を追加
- 2023-11-11 「乳腺外科学の歴史」に関連文献を追加
- 2023-11-05 「サルファ剤と抗生物質」を更新,ドーマクの原著論文を追加
- 2023-10-31 人物篇に「ベルナール」を追加
- 2023-10-28 「外科学の芽生え」を更新
- 2023-10-25 人物篇に「リード」を追加
- 2023-10-24 「軍事医学の歴史」を追加
- 2023-10-02 人物篇に「ビルロート」を追加
- 2023-09-30 人物篇に「ミクリッツ」を追加
- 2023-09-26 人物篇に「ハルステッド」を追加
- 2023-09-26 「乳腺外科学の歴史」を追加
- 2023-09-18 「腹部外科学の歴史」を追加
- 2023-09-02 人物篇に「ヒルデガルト」を追加
- 2023-09-01 「インスリンの歴史」を更新,関連事項「インスリンの先行研究」を追加
- 2023-08-28 人物篇に「ラントシュタイナー」を追加
- 2023-08-27 総目次を追加
- 2023-08-20 「ワクチンと血清療法」に「ポリオワクチン」を追加
- 2023-08-19 人物篇に「高峰譲吉」を追加
- 2023-08-19 「インスリンの歴史」に関連事項「ホルモンの歴史」を追加
- 2023-08-13 「疫学の歴史」を追加
- 2023-08-04 「サルファ剤と抗生物質」を更新,フレミングの原著論文を追加
- 2023-07-28 「北里柴三郎」を更新,北里柴三郎の原著論文を追加
- 2023-07-24 「全身麻酔」を更新,ロングの原著論文を追加
- 2023-07-17 「診断法の進歩」に関連事項「心電図の歴史」を追加
- 2023-07-14 「輸血の歴史」を追加
- 2023-07-01 ウェブサイト公開