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パスツール Louis Pasteur

経歴と業績

パスツール (Louis Pasteur , 1822-95)

1822年,フランスの南東部,スイス国境に近いドール(Dole)に革職人の子供として生まれた.高等師範学校では化学を専攻し結晶学の論文で博士号を取得し,1848年にストラスブール大学の化学の教授となった.ここでは酒石酸の立体異性体を発見し,立体化学の祖とされる.1854年,新設されたリール大学の学部長となり,ここでワイン醸造業者からワイン腐敗の原因究明を依頼されたことを機に微生物学の研究に足を踏み入れた.それまでは化学触媒作用によって起こると考えられていた発酵現象が微生物によるものであること,またワインの腐敗が様々な細菌の繁殖によるものであることを発見した.1861年,有名な白鳥の首型フラスコの実験により,微生物は有機物質から自然発生するとする従来の概念,微生物自然発生説を否定した.1862年には,細菌による腐敗を防ぐ低温殺菌法(pasteurization)を発明した.

1865年,フランス政府から,当時養蚕業者を悩ませていた蚕の微粒子病の調査を依頼された.1867年にソルボンヌ大学教授となった.1868年に脳出血のため半身不随となるが研究を続け,1870年までに微粒子病の原因が微小な寄生虫(微胞子虫 Nosema bombycis)であることをつきとめた.1877年から細菌の研究を始め,炭疽病,敗血症,産褥熱などの病原菌を研究し,また始めて嫌気性菌の存在を報告した.これらの研究を踏まえて1878年に著した《微生物説とその医学および外科学への応用》(La théorie des germes et ses applications a la médicine et a la chirurgie)は,微生物が様々な疾患の原因となること,すなわち微生物病源説を明らかとし,その後の医学に大きな影響をもたらした.例えばイギリスのリスターの石炭酸による消毒法の開発は,これに基づくものであった.

1880年からワクチンの研究を開始し,1881年に炭疽病ワクチン野外公開実験に成功し*1,1885年には狂犬に噛まれた少年に狂犬病ワクチン(狂犬病に感染したウサギの脳脊髄液)を投与してその発症を阻止した*2.1888年,狂犬病ワクチンの成功を背景として寄せられた国内外から醵金をもとに,パスツール研究所を設立した(パスツール研究所は現在に至るまで世界有数の医学研究拠点であり,例えばAIDSウイルスの発見もその業績のひとつである).1895年に病没.国葬が行なわれ,その遺体はノートルダム大聖堂の地下に安置され,その後パスツール研究所の地下廟に改葬された[1-3].

出典